芸は身を助ける

芸は身を助ける定年退職してまず困るのが友人作りである。サラリーマンは仕事一筋に生きてきた結果、地域とのつながりをほとんどもたないまま、定年後の生活を迎える。また、それまでの仕事、職場を中心とした友人関係も、ほとんどが定年と同時に消滅する。定年後の長い第二の人生で友人関係を充実させることが、生活の満足度を高めることが分かっている。友人作りに趣味や余暇・スポーツなどが役に立つ具体例をご紹介しよう。
田中さん(62歳)は運輸会社に60歳定年まで勤めたが、その後は経済的に何とかやっていけそうなので、好きな囲碁を極めたいと思った。以前から囲碁をやっていたが、仕事が忙しく段位まではとっていない。まず、60歳から囲碁の勉強を猛烈に始めた。独学だが詰碁をなんと1500題も解いて、何とか二段の資格をとり、ようやく碁会所にも行くようになった。碁会所は弱いとほとんど相手にされないらしいが、今では週に4日も通っている常連である。月1万円の定額制で、懐はそれ以上痛まないから安心だ。この仲間づきあいが楽しいうえ、頭の体操にもなるという。
もう一人、高橋さん(66歳)は昔からの文学青年。映画、芝居をみながらその評論をまとめることを趣味にしていた。現役時代は職を転々としたが、最後は印刷会社の原稿整理の仕事で定年を迎えた。退職後、地域の文章サークルに入り活動を始めた。10人くらいのグループだが、毎月一回の会合があり、お互いの作品を批評している。これをまとめて2年に一度は本を作成しているが、図書館や自治体からもリクエストがある。昨年、妻を病気で亡くしたときは、このサークルの仲間がいろいろ助けてくれた。妻の死を乗り越えられたのは、この仲間たちがいたからだ。
昔からやりたかったことを、定年後自由にできることが楽しい。しかも、そこで仲間ができたことで生活の張り合いが生まれている。昔からの趣味が仲間作りに一役買っている好例といえるだろう。